「ハル!ハル!やっと見つけた!どれだけ探したと思ってるんだよ!」



夜の深い森の中を、アキはただただハルを探し走り続けていた。

何時間が過ぎたのかももうわからない。
腕時計を覗いてみた時、もうその針は動いていなかった。

この腕時計は、ハルから贈られたものだった。
雑誌のCM広告でハルが身につけていたのを見て、アキが気に入って褒めていたら、誕生日にプレゼントしてくれたのだ。

プライベートで出掛ける時は、必ず身につけて行くくらい、とても気に入っていたのに…。

コウモリとの乱闘や、この森で何度も転倒した衝撃で壊れたのかと思ったが、
そもそもそんな単純な理由ではなく、時空の歪みによって時間というものが狂って止まったのかも知れないと思った。


何しろ今まで当たり前にいた世界が崩壊したのだ。
非科学的なことは信じない主義のアキだったが、それを覆す事態が目の前で起こったのだ。

全人類が、当然の如く信じ、それによって何もかもが動いてる…
『時刻』『時間』
それを無視して生きることなど不可能だった。

特にこの仕事が軌道に乗ってからは、毎日が時間との闘いだった。

一作品がクランクアップして、次の作品に入るまでの僅かな期間は、少しゆったりした時間を過ごせる日もあったが、
ゆったりした楽な時間ほど、早く過ぎてしまう。
おかしな話だ。

自分だけでなく、人は誰でも何らかの形で、時間に縛られて生きているのだ。