木の幹に上半身を預けるように身体を投げ出して、ハルは目を閉じている。

暗闇の中に忍び込んで来た夜風が木の葉をざわめかせ、ハルの癖のない前髪をサラサラと揺らしていた。



デイビット伯爵は赤く染まった唇を拭い、ハルを見下ろしていたが、ハルの前にしゃがみ込み、彼の頬にそっと手を当てた。


「お前は、命を奪うには惜しいほどの、美しく潔い男だったな…。
本当なら、血と同時に魂も戴くところだが…
お前の強い愛情に免じて、魂だけは暫くの間、残しておいてやろう。
月の姿が、天の西側に落ちる前まで待ってやる。せめてもの慈悲だ。
アキとの別れをしっかり惜しむんだな」



デイビット伯爵は冷ややかにそう言い残すと、ハルの前から姿を消した。