『clair de lune』(クレール・ド・リュンヌ)の閉店後の店内では、ハルとアキの所属事務所関係者、店員達が、重苦しい空気の中、順番に警察官の聴取に応じている。


「水島、で、あの新人バイトくんのことは、何かわかったか?」


この店では、クリスマスの繁忙期に備えてスタッフ不足を補う為、アルバイトを募集していたが、そこに応募して来た大学生の男性が1ヶ月ほど前から働いていた。

以前、他所のレストランでホールの経験があるということだったので、すぐに採用され、実際仕事もテキパキとこなしていて営業にも貢献していた。

その “ 彼 ” が、ハルを席に案内した後、いつの間にか姿を消していたのだ。
きっとハルが居なくなったのと、同じ頃とみて間違いなかった。



「はい、やっぱりみんな何も知らないそうです。
藤崎様を入口から席にお連れしたのは彼で、僕はその様子を見ました。
で、オーダーも彼が聞きに行くんだろうな…
と思っていたのに、少し経っても受けてないようなので、彼を探したんですが目の届く範囲に見当たらず、二階席か奥の方の席に行ってるのだろうと思い、僕が代わりに行ったんです。
そうしたら、もう藤崎様の席には誰もいませんでした。
その辺りからです。彼のことも、誰も見ていないんです。
他のウエイターが “ 何があったか知らんが、一番忙しい時に無断で帰るというのはどういうことだ?!” って怒っていました。
1ヶ月間、彼を見て来て、そんな非常識なことをする子には見えませんでしたけどね。
だから僕は、何か事情があり、店長か誰かに許可を得て帰ったものだとばかり…」

「いやいや、俺は何も聞いてないぞ。
もしかしたら藤崎さんと日浦さんだけじゃなく、彼も一緒に?ってことなのか?いったいどうなってるんだ?」



「あの…それで、彼に電話をしてみたんですが…」

「出なかったのか?」

「いえ。正直、あの一番忙しい時間帯に本当に無断退勤したなら、バツが悪くて出られないだろうと思ったんですが…。
出たんですが、他人だったんです。
携帯も、家の電話もデタラメだったみたいです」

「は?!何だって?!」