私は、ベッドから出て、棚からオルゴールを取り出した。このオルゴールはママがパパに出会った時、パパが持っていたものらしい。
それを、パパが亡くなった時ママが私に託してくれたのだ。

ママはよく言っていた。


「いつか、アンジュには、このオルゴールが必要になるわ。」
と。

それはきっと、パパが居なくなってしまって、私がさみしくならないようにという、ママなりの優しさなのだろう。

ママは…あまりパパの話をしない。
心配させまいとしているのだろう。私と遠くにいるパパに。


私はママの泣き顔を一度も見たことがない。


「私は…大丈夫。でも、ママは…?」

チクっと胸が痛む。

パパの面影を探すように。
記憶の鱗片(りんぺん)を探すように。オルゴールを見つめた。

オルゴールはぜんまい式で、金の縁の美しい箱のカタチをしていて、細やかな彫刻や凝った装飾が施(ほどこ)されていた。

蓋(ふた)には宝石のような色とりどりの石が埋め込まれていて、月の光に照らされ、きらきらと輝いた。

蓋を開くと、内側には装飾の枠にはめられた鏡が組み込まれていて、箱の中には大小異なる歯車が収まっていた。
それぞれの歯車の中心にはダイヤモンドなどの宝石の様にカットされた美しい小さな石がはめられている。

思わず見惚れてしまう。

そのオルゴールからは不思議なオーラのようなとのが放たれているようだった。

ドキドキしながら、おそるおそる手をのばし、持ち手がハート形のぜんまいを指先でつまむ




不思議な「何か」が始まる予感。
今思えばもう、この時感じていたのかもしれない。


ゆっくりとぜんまいを巻く。




一回








二回











三回