私が泣きやんだ後





ミルキーは言った。






「『向こう』の世界に行く前に軽く身支度をしましょうか。」



「身支度???」



「顔を洗ったり、歯を磨いたりしないと、ニンゲンもメモリもシャッキリしないものです。だからといって、身支度の道具までアンジュ様に出して頂く、という事は、私、致しません。なので、持ってきました。」

ミルキーは。そういうが、そんな物を持っているようにはとても見えなかった。

もしかしてミルキーも空想の『才能』があるのだろうか?
いや…でもたしか、空想できるのはニンゲンだけだとミルキーは以前言っていた。


さらに、空想なら『持ってきた』という発言は何か、おかしい。







「リメンバー!!」

「わっ!!」





ミルキーが突然大きな声を出した。





すると





広辞苑ほどの大きさの黒い本に金色の文字で英語でミルキーと書かれた物が出現した。




「ニンゲンの能力が『空想』と呼ぶならば、私達メモリ能力は簡単に言うならば、『記憶』」

ミルキーは、そっと秘密を打ち明けるように呟く。

更に早口でさらさらとこう唱えた。

「リメンバー、セレクト、洗面器、タオル×(かける)2水筒×2歯ブラシ×2コップ×2」

すると本から声が聞こえた。

「セレクト完了。セレクトした物を表示しますか?」

オペレーターのような女性の声。

「YES。」

ミルキーがそう言うと、本の中からミルキーが先ほど唱えた洗面器が現れた。水筒、歯ブラシ、コップ、タオルは二個ずつ。
(多分、私とミルキーのぶん)
そしてそれらは、音をたて落下した。


「これが、メモリの能力です。驚かせてしまいました?
メモリの能力『記憶』は、簡単に言うと、本の中に記憶をすべて記録すること。最大10点の物、同じものなら上限なく収納することができ、
リメンバーと唱える事で取り出せる能力…、です!!!
メモリとは、実はニンゲンの空想から生まれてくるのです。メモリが『記憶』と呼ばれる能力をもっているのなら、ニンゲンは『空想』の能力をもつのです。」