私の家は52F!?〜イケメン達と秘密のシェアハウス〜


時間はあっという間に過ぎて、約束の夕方になる。

今日は残業もないので、早めに上がった。

さっさと準備しないと源之助が迎えに来てしまう。


表口から出ると人目についてしまうので、警備室がある裏口から出る。


「お疲れ様、日下部さん。昨日は大変だったね」

昨日の火事の一件で、あずさは時の人となっていた。

有名になるにしても、もう少し違った有名人になりたかったが。


「田中さんもお疲れ様です。これ良かったらどうぞ」

まかないの余りという言い方は失礼だが、まだ食べることはできるけれど店には出せないものをよく店員が持って帰る。


その一部をあずさはよく可愛がってくれる警備室の田中さんに差し入れしていた。


「いいのかい?ありがとう」

田中さんは「妻がここのクッキー好きなんだよ」と嬉しそうに紙袋を抱えた。


挨拶を終えて、裏口から出ると夕日がビルに反射してB.C. square TOKYOが真っ赤に染まって見える。

「……」

燃えた家に帰ることもできず、途方にくれる。


だからと言って、源之助の家にお世話になることも違う気がした。


「どうしようかなぁ」


とりあえず、公園に入って少し冷静になろう。


こういう時、実家が近くにあれば便利なのだろうが、生憎両親とも海外に住んでいるのですぐに助けを求めるのは不可能だ。

今夜も漫画喫茶だな……。

とベンチに座ってぼーっと考えていると、人影があずさの目の前に来た。


「はあ……はあ」


「……」


「はあ……」


「……」

露出狂だ。

どうしよう。

動けない。

昨日は火事、本日は変質者。

何か悪いことでも前世でしたのだろうか。

「ねえ、お嬢さん」

はあはあ言いながら、そばに寄ってくる。

気持ち悪い。

本当に気持ち悪い。

声を出そうにも、怖くて声を出すことができない。


変質者があずさに触れようとした瞬間、バキッと鈍い音がした。


「……え?」


目の間に立っていたのは源之助だ。

「何で?」

「いや、何でって言うのはこっちのセリフだよ。待ってて言ったのに」

「行くよ」と手を引かれ、その場を去る。

今更になって悪寒が走った。

怖かった。

どうしようもないくらいに。

公園から少し離れた場所に到着すると、源之助に強く抱きしめられた。

「震えてる」

彼の言葉にあずさは自分が震えていたことに気がついた。

「……」

「心配だから、今夜は俺の家に泊まりなよ」

何もしないって約束するから。

その時の自分は怖い思いをして判断基準が鈍っていたんだとしか思えない。

源之助の言葉に、あずさは静かに頷いていた。