FURADA。

アメリカのシアトル発のコーヒーショップ。

スターバックス、タリーズコーヒーと肩を並べるとまではいっていないらしいけれど、今を時めく世界展開をしているコーヒーブランドだ。

日本に初上陸して、B.C. square TOKYOという名前の55階建てビルの2Fに入っている。

日本ではまだ知名度が低いが、一度飲んだらまた飲みたくなるとリピート客が多いのでFURADAの朝は非常に忙しい。

特にB.C. square TOKYOにはたくさんの企業が入っているので、色んな会社員の人が朝や残業のお供としてコーヒーを買って行くのだ。

「日下部さん。この納品の棚卸お願いしてもいいかな。ピークの時間も去ったことだし」

朝のピークが去った後、店長の中村に頼まれて、あずさは「わかりました」と返事をして作業を開始する。

春も4月末となってくると、夏の商品が展開されるらしい。

メニューには、マンゴーのスムージーが可愛らしく描かれている。

FURADAのメニューの特徴として、毎回かわいいイラストが描かれているのが売りらしい。

写真投稿アプリのインスタグラムなどで検索すると、海外の女の人がメニューと一緒に自撮りをして写真をアップしている。

商品の実際の写真もあるのだが、メニューは全て手書きのイラストだ。

「うん、これでよし」

メニューセットを袋からすべて出し、販売用のマンゴーティーも段ボールから取り出す。

あとは店の棚を並び替えるだけだ。

裏から表にメニューの束と棚に並べる用のマンゴーティーを持って出ると、視界の中に突然入ってきた男がいた。

「あーずーさーちゃん」

「……」

「え、なんで無視するの?」

「……」

「あーずーさーちゃーん。My sweet honey~。My baby」

「……」

「キスまでした仲なのに」

ボソリと呟かれ、あずさは振り向き「今、仕事中なんです!」と噛みつく。

職場であずさに付きまとう男、源之助の左頬が赤いのは、あずさが思い切り平手打ちをくらわせたからだ。

人の唇を奪っておいて自業自得だ。

24歳にもなってキスごときでと思うかもしれないが、あずさにとってキスとは非常に大事なものだ。

勝手に奪われて、まあいっかとはならない。

「あずさちゃん、今日仕事何時に終わるの?」

「……17時です」

「夜ご飯は一緒に食べようね」

「……」

「ね。あずさちゃん」

「……」

「聞いてる?」

「……」

「あーずーさーちゃーん。無視するなら、ここでもう一度キスするよー?」

「あーもう!わかりました。ご飯ですね」

あまりにしつこい鬼絡みに耐え切れず、あずさはマンゴーティーを棚にポンと置いて源之助の方に向かって言った。

「約束だよ」

嬉しそうに笑って彼は、その場を去っていく。

手には新商品のコーヒーを持っていた。