別れるための２８日の蜜日

「稲垣さんの好みは分からないですけど、相沢さんみたいに可愛い女性を嫌いな男性はいないと思いますよ」

自分でも自虐的だと思うけど、事実だろう。

この人が縁談の相手なら、安心だな。律人の事を大事にしてくれるだろうし、律人も好きになれるだろう。
安心過ぎて、急激に寂しくなるくらい。

「稲垣さん、もうすぐ帰ってくると思いますし、待っていたらどうですか？直接渡した方がいいと思うし」

腕時計を相沢さんに返すと、少し迷った顔をしたけど、嬉しそうに微笑んだ。

「あれ？沙耶香さん？」

その時、遠くから律人の声がして、相沢さんの顔がぱあぁっと明るくなる。

そのまま玄関まで来た律人は私と相沢さんを交互に見て少し困ってる。そりゃ、困るよね。彼女と縁談相手が自分の部屋で立ち話してるんだもん。

仕方ないなぁ、大人だもんね。

「稲垣さん、待ってたんですよ。こちらの相沢さんが稲垣さんに渡したい物があるって訪ねて来られて。あの、私、飯島さんのところに行って荷物持つの手伝って来ますから」