別れるための28日の蜜日

「ね、何食べたい?久しぶりだし、律人の好きなもの作るよ」




スーパーでカートを押しながらお肉を検討している姿は、いたって普通のいいオトコ。まさか大企業の創業者一族の御曹司だと思う人はいないだろう。

立場と勤務先が変わっただけ。律人本人は何にも変わってない。
この一年、私はずっとそう思っていた。

でも年末、律人に誘われた一族の集まりで私は自分の能天気さを呪いたくなった。

立場が人を作る、だったかな。どっかの小説でそんなフレーズを読んだことがある。
パーティで見た律人はまさに、ソレだった。

堂々とした姿勢と眼差し。自信に溢れた話し方と安心感のある声。経営者一族のオーラをまとった姿は、キラキラしていて。そこには明るくて優しくて爽やかな会社のエースの姿はどこにもなくて‥‥。

あぁそうか、これが今の律人なんだ。もう一緒に働いていた時の律人とは違ってるんだ。

そんな事を思いながら呆然と見ているしかできなかった。