「お嬢さん、お名前は?」
にっこりと笑う絵里子さん。

「なっ、名前なんてどうでもいいでしょ!」
キッと絵里子さんをにらみつけている。

「山口さんのお友だちかしら?」
「恋人よ!」
「おいっ!もう付き合ってないだろ。別れたのはずいぶん前だよな」

キレて叫ぶ茉優にキレ気味になる俺。
とっくに別れたよな。給料の安いやつとは結婚しないから別れるって言ったのはお前だろ。

絵里子さんはにっこりと笑った。
「そう。元恋人さんね」
まるで女優のようなきれいな笑顔に怒りを忘れて見とれそうになる。

「そんなこと、どーでもいいでしょ!おばさん!」
顔をひきつらせて叫ぶ茉優。

絵里子さんははぁっとまたため息をついた後、大きく息を吸って言った。

「私はあなたから見たらおばさんかもしれない。
でも、それは何年か後のあなたの姿でもあるのよ。
他人を『おばさん』って呼んで罵ることは未来の自分を罵ることと同じ。
若いからって何を言っても許されるわけじゃない。
若いことが偉いわけでもない。
もう少し自分を磨きなさい。
何十年か後に自分を誇れる大人の女になりなさい。
同じ女を蔑むような真似は必ず自分に還ってくるものよ」

茉優は絵里子さんの発言に口を震わせていた。

絵里子さんは真っすぐ茉優を見つめている。
あの凛々しく真っすぐなまなざしで。

ぱちぱちぱち
拍手がして、振り返ると隣のテーブルの20代2人と40代の女性2人の計4人のグループが拍手していた。

「すごいわ!素敵すぎる」
「スカッとしたー」
20代の女性は目をキラキラさせていた。
40代位の女性が「格好いい。私の言いたい事を全部言ってくれた」と拍手。

茉優は顔を真っ赤にして手を握りしめている。

「あなたさ、女性が彼をひっかけたような言い方してたけど、全然違うわよ。見てたからわかるわ。彼が彼女に夢中なのよ。他は全く目に入らない位にね」

40代位の女性の一人が茉優に向かって言った。