驚いたように目を丸くしているけれど。
振り返った俺の方が、よっぽど驚いていたと思う。


『・・・お疲れ。』

きっと声だって、情けなく裏返っていたと思う。


「お疲れさまです。」

そのマフラーの色は、“澪”という水が流れるような君の名前にぴったりで。

星空を背景に突然立っている姿は、星から溢れ墜ちてしまったようだった。






『二次会行かなかったの?』

行かなかったんだろう、ここにいるんだから。

「そんなに飲めないんです。」

知っていた。途中から透明な泡を飲んでいたこと。
あれはきっと、サイダーだったこと。



「岩田さんも行かなかったんですね、主役だったのに。」

『別に主役なんかじゃないよ。』



タクシーの扉が開いて。
ハザードランプの点滅音が、耳に届く。


妙な間と。

君の視線がフワリとタクシーに飛んだ。


その甘い隙を、見逃さなかった。








鼓動が逸る。

駆け出す。


賭けに出ろ、と。

本能が鳴く。





きっかけなんて何だっていいはず。

その先にあるものが、本物ならば。








『萩原さん。』



これから俺は、君を誘う。

蕩けるような深い情事に。




「はい?」




その細い顎先は、縦に振れるか横に振れるか。




もしも縦に振れるなら。

この先の、一瞬足りとも後悔させない。









『乗る?』







それは今夜、世界で一番甘い賭け事。






fin♡