哀れな私を嘲笑うかのように、にわか雨が降り注ぐ。


椿鬼の倉庫から一キロ離れた所で私の歩みは止まった。


顔を俯かせ、ふるふると震える肩。


私の口から洩れたのは、嗚咽……ではなく。


「くっ、あっはっは!」


高らかな笑い声だった。


「くっ……アイツら騙されてやんの! バーカ! バーカ!」


今の私の顔に絶望は塵一つすらない。


あるのは、椿鬼から解放された“喜び”だけ。


私は、はなから椿鬼に居場所や安らぎを見出したことはない。


寧ろ、束縛される苦痛と苛立ちしかなかった。


みちるは被害者でも、私を貶める加害者でもない。
私を椿鬼から抜け出すために協力してくれた恩人だ。


みちるの嫌がらせは全て二人の自作自演。
アイツらは見事に騙されたのだ。


「やったわ……これで私は自由よ。普通の高校生に戻れるの!」


私は初めて平凡がいかに幸せか痛いほど実感した。


にわか雨はいつの間にか上がり、雲間から柔らかな光が差し込んでいた。