カクレオニ

「ほら、後ろ詰まってる」




無愛想にそう言って、私と恵里香を階段から押し出す。



「ちょっとー、加佐原くんひどい」



恵里香は陵汰の方に振り返り、頬をふくらませて怒る。




「恵里香は今日日直だろ、日誌」




「そ、そうだった…」





するりとそれを躱しながら、陵汰は私の
右側にやってくる。




「ちょっと私、日誌とってくるね」




恵里香は何故か申し訳なさそうにそう言いながら陵汰の横を通り過ぎて、今登ってきたばかりの階段を降りて人混みの中に消えて言った。




恵里香はいつもそそっかしいんだから。

前だって…

















あれ?










それは突然だった。






突如襲った胸騒ぎ。





(なに…この感じ)











胸の中で渦をまく、鉛のような感覚。











「どうした?」





隣で陵汰が私に声をかけるのも無視して、私は恵里香が降りて行った階段から、目を話せなかった。











前…?



































「結花!」



陵汰がさっきよりも一回り大きな声で名前を言ったことで、私は一瞬にしてはっと意識を取り戻した。









「あ…ごめん」








どうしたんだろう私…

今までこんなこと、なかったのに。





でもまた身体は何事も無かったかのように動き、視界も元通り。






何なのよ、一体…











「お前いつもより変だぞ、具合でも悪いのか?」








陵汰は不思議そうに言い、くびを傾げて私を見ている。






「…なんでもない。あといつもよりってどういうことよ!」






「だっておまえ、いつも変だろ」







私の態度を見て安心したのか、陵汰はイタズラっぽく笑って言う。




















「今日の放課後って時間あるか?」





トイレの前を通り過ぎ、二年生の教室に向かって廊下を歩いている時だった。






「空いてるけど…なんで?」




陵汰がそんなこと言うなんて珍しい。


いつも部活だから、みんなで遊ぶって時もいないのが多かったはずだけど。


ましてや自分からなんて、余計にどうしたのかと思うよ。