走っていた。
「ねぇ、いる?」
「ううん、来てないみたい」
切らした息を抑え、小さなかすれ声で言った。
久しぶりに駆けている足に、振動が伝わってくる。
私と玻璃の足音が、夕日に染まって静まり返るオレンジの校舎に鳴り響いていた。
「あっ、ここに隠れようよ」
玻璃が私の後ろで足を止めて、こちらに手招きをする。
「えっ、ちょっと」
教室の中に消えていった玻璃を追いかけ、慌てて軌道転換をしてUターン。
3秒遅れて入った教室。
「理科室か」
私が入ったのは黒板側の入口。
人体模型はないものの、ここまで静かな誰もいない空間だと不気味だ。
玻璃は薬品が並べてある透明のショーケースから見える、理科室前の廊下をのぞきこんでいた。
「ふー、とりあえず大丈夫そうだね」
誰も来ていないことを確認してから、滲んだ汗を手で拭う。
「そうだね、ちょっと休憩しよっか」
私と玻璃は机に上げられていた木製の椅子を引っ張り出して、廊下からは見えないように教室の隅に座った。