昨日と同じ病室の近くまで来ると、人の泣き声が聞こえてきてあたしと大雅は足を止めた。


病室のドアは開いていて、少し入ったところに楓先輩の後ろ姿が見える。


楓先輩はその場にうずくまり、両手で顔を覆って泣いているのだ。


その姿を見ると、もうあたしの足は一歩も動かなくなってしまっていた。


琉斗の両親が必死に楓先輩をなだめているけれど、楓先輩は泣き止まない。


病室のベッドに足を無くした琉斗がいる。


そう思うと、途端に吐き気が込み上げて来た。


見たくない。


これ以上は無理だ。


心臓はドクドクと跳ねあがり、琉斗が轢かれた時の映像を思い出す。


見たわけじゃないのに、どうしてあたしには見えるんだろう。


「大雅……帰ろう」


あたしは大雅の腕を掴み、今下りたばかりのエスカレーターの前に立つ。


「心、大丈夫か?」


「うん」


あたしはそう返事をして、手を口に当てた。


大雅は夢を叶えた。


その為には少しの犠牲はつきものだ。


大丈夫。


大丈夫……。


自分自身にそう言い聞かせ、あたしは深呼吸を繰り返したのだった。