楓先輩は琉斗のファンではなく、大雅のファンだったということになっている。


強い選手が好きなら、当然そうなってくるだろう。


「うそでしょ……どうしよう……」


その場に立ちつくし、教室の前で大雅が来るのを待っている先輩を見つめる。


楓先輩は時々こちらを見て軽く舌打ちをしている。


とんでもない人を敵に回してしまったのではないかと、胸の中に不安が広がって行くのがわかる。


楓先輩は学校1の美少女だ。


そんな人を相手にするなんて、あたしにできるのは思えない。


「どうしたの心? いつもはそんなに心配そうな顔したりしないじゃん」


愛が不思議そうな表情を浮かべてそう言って来た。


「いつもはって……いつも、あたしどんな風にしてる?」


「どんな風って、別に普通だよね?」


愛が紀子に聞く。


紀子は「そうだね。『ファンは大切だから』とか言ってじゃん」と、返す。


『ファンは大切だから』


そんなの、その辺のにわかファンに対してだから言えることだ。


楓先輩は違う。


琉斗の足が切断された時、崩れ落ちるようにして泣いていた。


あれは本気じゃないとできないことだ。


そんな気持ちが今は大雅へ向けられているということなんだ。