気持ちが落ち着いてきたところで…

「連絡したら?」

気が進まない…家に引き戻されそうで嫌だった。

このままという訳にはいかないから連絡をする。


「はい…どうしたの?」

「今日は学校に行かないから…」

「どこにいるの?」

「彼氏の家…」

「帰ってきなさい‼」

「それは無理…今日は放っといて。夜には帰るから…」

「お母さんと話ししない?」

「もう少し、時間ちょうだい?」

「そう…学校休んだ事はお父さんには秘密ね?」

「ごめん…」


今はお母さんと話したくない。

急に寄り添われても、どうしていいかわからない。


私なりにいい子にしていたつもり。


だけどね…

彼は私を外に連れ出してくれたの。

私を否定しないで認めてくれたの…。

いつも大きな愛で包んでくれるの…。


だから…邪魔しないで。


今日だけでいいから…。


「咲雪、息抜きしに行くか‼」


連れて行ってくれた場所は海。

久しぶりに来た海…何度も押し寄せる波。

キレイな砂浜。


「気持ちいいね‼」

「気持ちいい‼」

空気が澄んでいて、潮の香りが心地いい。


「ねぇ…私って子供っぽい?」

「そんな事ないけど…何で?」

「皇雅に…近づきたいから…」

「俺も大人になりきれてないし一緒だよ…」

「私、甘えてばっかりだね…助けてもらってばっかり…」

「いいじゃん…甘えてよ…俺に…俺だけに」


嬉しかった。


今まで彼氏いた事あるよ。

でも、こんなに人を好きになったのは初めてだよ。

付き合っても相手に合わせるのが面倒になったり、周りに色々知られるのも嫌になって私から別れていた…。

いつもそう。

面倒になる。


皇雅に会って誰かを愛する事がこんなに幸せな事で、切ない事なんだってわかったよ…。


人を好きになる気持ちは理屈じゃないから。


「あっ…月だ…昼間の月」

「本当だ…最近、空見てないな。前か横か後しか見てないわ…俺」

「空見てたら、事故っちゃうしね?」

「そうだな」


皇雅には素直になれるのになぁ…。


家族は切っても切れない関係。

否定され続けた私は親への接し方も忘れたし、いつも顔色見ながら生活していた。

当たり前に。

気づいたら何も話せなくなっていた。

どんな反応されるのかこわくて…。

いつの間にか嘘をつく事に慣れていた。

その場を乗り切れればいい嘘。


-ピコン-

お父さん…

「昨日は叩いてすまなかった」

どうしたの…急に。


「見て…これ」

「お父さん?」

「そう…反応に困るね。想定外な事は」

「少し、咲雪も寄り添ってみたら?」

「どうやって?」

「どうって…普通に?」

「………普通?」

「そう…って普通って一番難しいな‼」

「そうかも…普通って何だろうね?」

「普通はこうですってないしな…」


困った顔も好き…

一生懸命、答えを探してくれる…


見た目とのギャップが好き。


友達といる時と…私と二人きりの皇雅は違う。


だから…私は特別なんだって実感できる。


前の彼女とも…こうだったのかな?

皇雅はどんな恋をしてきたのかな?

「何?」

私…今…めっちゃ見てたよね?

「別に…」

「気になる事でもある?」

いつも見抜かれる。

「どんな人だったの?前の彼女…」

「どんな人?そうだな…咲雪と正反対の子‼」

「どんな人?素直って事?」

「逆…今思えばなんで付き合ったんだろうな…」

「好き…じゃなかったの?」

「好き…だったけど…疲れちゃうんだよな…」


ズキッてする…疲れちゃう…私もいつか負担になるのかな…

不安になるよ…聞いたの…私なのに…


無言の私に、

「わがままで束縛ひどくて…」

そう言った。

小さい声で。


「私もそうかも…一緒だったりしてね?」

「それはないかな?咲雪といて疲れたとか思った事ないし、俺…ハッキリ言うし…」

「そっか…」

「咲雪に会う前から別れ話ししてたんだ…俺…」

初めて知った…

略奪愛だと思ってた…

「なかなか別れてくれなくて…大変だった…」

そうなんだ…

「ケータイ鳴るのも嫌になるくらい…」

そう言って…困ったように笑った。

「最終的にどう…なったの?」

「直接会って…自分の気持ち伝えた…別れたいって事」

続けて…

「本当に勘弁して…って…俺はお前の都合いいヤツじゃないって…」


都合いい?

どういう事?

でも…もう聞かない。


だってね…「もう、話したくない」そう顔に書いてる。


空気を変えたくて…私は海に入った。

「皇雅もおいでよ‼」

海に向かって歩いてくる皇雅を思いっきり抱きしめた。


時々…言葉にならない程愛しくなる…。


波が押し寄せても…離さない…絶対。


次から次に溢れるこの気持ちは…伝えきれないよ。


彼だから味わえた感情。


他の誰かだったら…絶対こんな気持ちにならなかった。



お父さんとお母さんにもこんな時代あったのかな?


死ぬほどお互い好きだったのかな…?

今はそんな風に見えないけど…どうだったのかな?


時々…思う。


彼に会ってから…私、変わったよ。


身なりじゃなくて、本当に大事なところ。


教科書にも辞書にも載ってない事。


だから、彼だけは傷つけないでね…。

お父さんも…お母さんも…。