このプロポーズを受ければ、玉の輿に乗るという幼稚園からの夢が叶う。

でも、......。


優しい、だけど、真剣な目でまっすぐに私を見つめる慎吾を見つめ返せなくて、視線を反らす。

いったいいくらするのか分からないくらいに完璧な指輪が入った箱を閉じて、すっとそれを慎吾の方へと返した。


「......慎吾、ごめんね。
......結婚できない」

「......え、なんで?
前家族になりたいって言ってくれたよね?
まだ早すぎた?
それともこの指輪が気に入らなかった?」


指輪は完璧。
早すぎることもない。
セレブ妻になるつもりはいつでも準備万端だ。

準備万端、のつもりでいた。


困ったように眉を下げる慎吾に、いたたまれない気持ちになりながらも、首を横に振る。


「じゃあ、......」

「.......嘘だったの」

「え?」


人を騙すよりも、自分の良心を騙す方がよっぽど難しい。

今思えば、玉の輿にのったらと脳内シミュレーションしていた時が、一番楽しかったのかもしれない。


セレブ生活は捨てがたいけど、お金は今も大好きだけど、優しくて私を信じてくれる慎吾の愛と信頼に負けた。

これまで全て順調にいっていたのに、最後の最後で良心の呵責に耐えきれなくなった。


「全部、嘘だった。

慎吾に近づいたのも、御曹司だから。
結婚したかったのも、御曹司だから。

そのために優しい女を演じてただけで、本当の私は拝金主義で利己的で、計算高い腹黒女なの。

私が愛してたのは慎吾のお金で、慎吾自身のことはこれっぽっちも愛してなかった」