彼氏への手料理。

家庭的な彼女を演出するために、普段はしないエプロンもわざわざ買ってきた。

もうアラサーだからやりすぎないよう、スタンダードな形の赤のチェック。

髪はしっかりまとめて、ネイルは透明のものを。

それから、いつものナチュラルメイクを今日はすっぴん風メイクに変えた。もちろんすっぴん風というだけで、ベースからしっかり作り込んであるんだけど。

ここまでしたんだもの、成功しないなんて冗談じゃない。


恥ずかしそうにうつむきながらも、大げさに首を横にふって、それから慎吾との距離を一歩詰める。


「ううん、全然そんなことないよ。
慎吾の喜ぶ顔が見たくって。
慎吾さえよかったら、またいつでも作るからね」

「いや、でも、なんか悪いな」

「......おいしくなかった?」


急に遠慮し始めた慎吾に、さらに距離をつめ、上目づかいで彼をみつめる。

不安そうに目をうるうるさせることも忘れずに。


「すごくおいしかったよ!そうじゃなくて、してもらうばっかりも悪いなって。
あ!そうだ!今日のお礼に今度53階のレストランに連れていくよ。この前のパーティーの時はゆっくり食べられなかったし、二人できてみたいって言ってたよね?」


いよっしゃ!待ってました!

しめしめと、慎吾の提案に本日二回目のガッツポーズ。


誰がリターンもないのに、わざわざ味つけしたひき肉をゆでたキャベツで丸めたりするものですか。

人間関係は、ギブアンドテイクじゃなきゃね。