バタバタとした平日から目をそらせる連休は、私にとって暇な時間でしか無かった。
日頃からお母さんは仕事でいない。私が学校に行った後に出て、早朝に帰ってくる。
朝ご飯は一緒に食べてるけど、それ以外でお母さんと一緒にいることなんて出来ないから…私は夜、家を抜け出すようになった。
余計な事を考えるときは、それを紛らわすのに夜の街が丁度良いーーー
それだけの事。
弱い者に辛い夜は、強い者がよく目立つ。弱い私は、強い者に身を隠して自分の存在を消していた。
「爽、行くよ。」
「うん。」
地味で大人しかった昔の自分が、今の私を見たらどう思うのだろうか。そんなことを考えていたら、枯れた笑みが零れて急いで前を歩く集団の後を追った。
街行く人々は、私達と目を合わせないようにそっと道を開ける。
その姿に昔の自分を重ねて、更に心は荒(すさ)んでいった。
「さ、さやたん!」
最後尾を歩いていた私に、突然振りかかる声。聞き覚えのある声に、自然と体は向きを変えた。
ふわふわな私服を身に纏った、いつものツインテールを下ろしている彼女。女の子一人で歩いてて良い場所じゃ無いのに、彼女は何故此処にいるのか。
「なっ…!こんなところで何してるの、千秋ちゃん!」
「こ、この前ね。ここら辺でさやたんを見かけて。千秋…心配で、今日もいるのかなって、ここで待ってたの。」
「こんなところで一人でなんて、危なすぎるよ!」
「それは、さやたんも同じだよ!…さやたんだって女の子だもん、こんなところ…来ちゃダメだよ。」
先を行く集団は、私の事なんて気にも止めずに街のなかへ消えてしまった。元々流れで付き合っていたから、相手の連絡先も知らない。そんな程度の連中が集まる場所に、彼女は心配だからと一人で待っていてくれた。
「な、何で…学校でも無いのに…。」
「友達だから、だよ?千秋、さやたん大好き。だからね、さやたんが暗い顔して歩いてるの見てね、辛かった…。さやたん、千秋に何も教えてくれないから、何でかなって思って…。ずっと待ってたら会えるかなって。へへ…会えた。良かった。」
小さく笑う彼女の手は、怖かったのか小刻みに震えていた。ずっと一人だった私は、本当の友達がどう言うものかは分からない。けれど、「友達だよ。」と言ってくれた彼女の言葉は、凄く嬉しかった。
心配したりされたり、今まで一人だった私には無縁の出来事。だけど、彼女は当たり前の様にそれをしてくれた。ずっと彼女は友達だと思って接してくれていたのかな…。そんな事を考えると、胸が痛む。
(私は千秋ちゃんを、信じることができなかった。)
優しくしてくれた事の裏に、何か理由があるんじゃないかなんて勘ぐったり。友達だと言う言葉の意味を素直に受け取れなかったり。深く入り込んでいいのか分からなくて悩んだり。
(ほんと、横場くんの言う通り…何で千秋ちゃんは私なんだろう。)
お互いに気まずくなりながら、千秋ちゃんに手を引かれて向かった先は、千秋ちゃんのお家。マンション暮らしの私とは違い、綺麗な可愛らしい外観から、女の子らしさを感じた。
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