『せめて相手が誰かわかればねえ。相手にこっちから警告することもできるんだけど』
初老の警察官が、気の毒そうに口にした言葉を思い出す。

誰……なんだろう。

ずっと考えてるけど全然答えはでなくて、堂々巡りを繰り返すばかり。

「でも、ほんっと今夜はマジでごめん」

「なんで翠が謝るの?」

「だって、こんな時に」

「わたしが勝手に押しかけてるんだから、翠は気にしないで。楽しんできて」
でもぉ、って翠はまだ不満そうに頬を膨らませてる。

実は、彼氏のご両親が突然上京されることになって。
今日は一緒に夕食をとり、そのまま一緒にホテルで泊まるのだそうだ。
だからわたしは合鍵を預かり、阿佐ヶ谷にある翠のアパートへ一人で帰る。

「今日はどっちみち原稿書きで遅くなるからタクシー使うし。ほんと、大丈夫だから」

「田所も取材旅行で留守だしねえ……」
はあぁって翠が頬杖をつく。
「なぁんで、こういう時に使えないかなあ、あのカメ助」

か、カメスケって……なんかかわいいんだけど。