想像するのもおそろしい。
マスコミの格好のネタになり、警察の信用は失墜。
一学生の鞠子が責任など取れるわけもなく、おそらくは牧教授が辞任することになってしまう。

それに———亡き父の同僚たちは、まだ現役の警察官だ。ほとんどが定年間近だが、彼らはまだ父を憶えてくれている。
自分が失態を犯せば、父の警察官としての名まで汚すことになるのだ。

そんなことはさせまいと、鞠子は持ち手を握る指に力をこめる。
できることなら、映画で観たようにアタッシュケースと自分の手首を手錠で繋ぎたいくらいだ。

そんなことをしたら逆に挙動不審だろうけど。

さてここから———

地下鉄から地上に出て、陽のまぶしさに目を細めて片手をかざす。
水埜邸への道順は頭に叩き込んできた。
駅から遠くないけど、かなり入り組んだ場所だと教授は説明した。