キミに会うたびふえる好き



「…くれるの?」


「あぁ。つーか、みあ、敬語じゃなくなったんだな」



自分でも気づかないうちにタメ口になっていた。


わたしは結構、意識的に敬語を使う方で高校の同級生にだって使っていることもある。


それが自然と初対面の人にタメ口だ。…スイーツパワーか。



「敬語のままのがいいですか?なら、気をつけますが」


「いや、タメ口でいい。仲良くなれたみたいでうれしいし」



…なに恥ずかしいこと言ってんの、この人。

今どきそんなこと言う人ほとんどいないよ。


そうは思いながらも顔に熱が集まっていく。


赤くなった顔につっこまれたくなくて少し俯きながら話題を戻す。



「これ、ホントに食べちゃうけどいーの?」


「俺、ケーキとかあんま食べないし。食べてくれた方がありがたい」


「ふーん?まぁ、ありがと」



マジでこの人なんで頼んだんだろう…?

ちょっとどころかだいぶ理解不能。



「お前は?」


「は?」



この人主語がないよ。

"お前は?" だけで通じるとでも?

質問の意図がつたわるとでも思っているのか?



「住んでるとこ。どこなの?」


「……日本です。」


「いや、それはそうだろうけど。県とかをききたいの」



わかってるよ。わかっててわざと "日本" って答えたんです。


今日あったひとに教える必要もないよね…

ましてや、自分の住んでるとこから遠いとこに住んでる人には。



「ここからだと月都さんが住んでるとこより近いとこですよ」



わたしは、なにか理由がない限り必要最低限のこと以外は教えない。


まぁ、少し前にいろいろあったからそれが原因でもあるけど。


今日会ったばかりの人なら、なおさら。



「連絡先とかきいても教えてくれねーよな?」



当たり前です。


住んでる県すら教えないのだから、連絡先のような個人情報なんてもってのほかだ。



「どうしてわたしの連絡先がいるの?
つきとさん、モテるでしょ?わたしみたいなかわいくない奴なんかよりも、もっとカワイイ子に声かけた方がいいんじゃない?」



この顔にこのルックス。

迷ったとこを助けてくれたんだ、きっと優しいひと。


そんな人がモテないはずがない。

芸能人並にカワイイ子、美人な女の子たちにもモテる。


わたしみたいな可愛げない女よりそういう子の方がいいはず。



「俺が、みあの連絡先を知りたいから……それじゃ、理由にならない?」


「ごめんなさい…会ったばかりのひとには…それに、きっともう会うこともないと思う。連絡先を知ってても意味ないよ?」



わたしをカフェに誘ったのは旅行中の"遊び相手の女"がほしかっただけじゃないの?


じゃなきゃわたしみたいな平凡な女が、こんなイケメンに連絡先をきかれるなんてありえない。


……帰ろうかな。


まだ、ショートケーキが半分ほど残っている。

相手も連絡先を教えないわたしにはもう用がないはず。



案内も連絡先をきくためだったのかな?

もしそうならショックだ。


まぁここまでカッコイイひとに優しくされたら大抵の女の子は落ちちゃうよねー……



「スミマセン、わたし帰ります」



そう告げると机に手をつき立ち上がった。



「え?でも、ケーキまだ…」


「ごめんなさい、お腹いっぱいになっちゃって…残します」



ウソ。

ほんとはまだ食べたいよ、このケーキめちゃくちゃおいしいんだもん。



「つきとさん、次はもっといい子に声かけてくださいね?」


「は?!なに言ってん…」


「さようなら、案内ありがとうございました!」


「ちょ、おい!待てよ!!」



望天はカバンから財布を取り出し、自分と月都の分のお金を机に置いた。


月都は追いかけて来ようとするが会計がまだ。


なにか言葉を発しているがわたしは足を止めず進んだ。

月都が外にでたとき、望天はもう見えない位置にいる。


…追いかけてくる必要なくない?笑

まぁ、それなりに、楽しかった!イケメンとお茶できるとか、いい思い出だ!!


………なんか胸の奥がチクチクする。

ケーキ食べすぎたかなー?


帰りはまっすぐ、みえているホテルに向かって進み、迷うことなく帰ることができた。