屋上から空を見上げながら、あたしはぼーっとしていた。



たった何階か上がっただけのこの場所なのに、空がこんなにも近く感じる。



雲が低い日なんかは、手を伸ばせば掴めてしまいそうだ。



あたしは例え掴めたとしても、掴もうとはしないだろうけど。



だって、雲なんか掴んでみたところで虚しくなるだけじゃないか。



水蒸気の固まりを握り締めてみたところで、手の中には何も残らない。



人の心と同じで握り締めることなど決してできないのだ。



「おいっ。教室行ってたんじゃないのか?」



そろそろ首がもげるんじゃないかなって思っていた時、豊の声が遠くから聞こえてきた。



ちょうど良かったと思い、首を元に戻すと目の前には豊が立っていた。



「明美が来てるか見に行ってただけ」



首を左右に曲げると、バキバキと音を鳴らす。



「来てたのか?」



「来てなかった」



「そうか」