あたしは車のほうを見て左手で大輔さんに向かってOKサインを出す。



微笑んだ大輔さんはゆっくりと車を走らせた。



「ふぅ~」



豊はこの中にいるんだな。



あたしは何を話せばいいか、どんな顔をして豊の前に現われればいいか考えながら中へと足を進める。



あたしは怒ってるんだから、こんな事考える必要なくない?



そうだよ。



何で豊に会うのに緊張しなくちゃいけないんだ。



頭の中で一人で会話をしながら中を覗くと……



豊の背中が見えた。



床に腰を降ろし、胡坐をかいている豊の背中。



その背中は少し震えているような気がした。



豊……



明美のいった言葉が何故か頭の中に響いてきた。



“豊先輩が一番辛い”



あたしは音を立てずに一歩一歩豊へと近づいた。



近づくたびに伝わってくる、豊の悲しみ。