「カナ~来てたんなら言えよ」



有田の言葉を理解しようと何回も頭の中で思い出しながら、あたしはボーっと前を見てると……



佐枝子さんが物凄い勢いであたしに飛びついてきた。



あたしはそのまま後ろに転がりそうになるのを必死に堪える。



「元気にしてたか?久しぶり」



そう言いながらあたしの頭をクシャクシャに撫でる佐枝子さんはいつ会ってもパワフルだ。



「こんな死にぞこないのおっさんといないで、こっちに来いよ」



「佐枝子さん……」



あたしの手を引きながら有田に向かって暴言を吐く佐枝子さんを一瞬軽蔑した。



こんな体になった有田に向かって死にぞこないだなんて。



「お前は相変わらずだな」



そんな佐枝子さんに有田は笑顔で話しかける。



「変わってたまるか!!」



佐枝子さんは有田に視線を移し、優しい表情でそう言った。



有田もそれに答えるかのように優しい顔をしてる。



「お前はそのままがいい」



「そんなことわかってるよ」



なんだろう。



2人の間に流れるこの空気は……



言葉は少ないけれど、会話しているような2人の空気。



「ほらっ。カナ、行くぞ」



あたしは佐枝子さんに思い切り手を引かれ、仕方なく立ち上がった。



「カナ、またな」



あたしは有田にいつまでこっちにいるのか聞こうと思った。



それなのに、有田が先に“またな”なんて言うから言えなくなってしまう。



あたしはコクリと頷き、佐枝子さんと一緒に有田の元を離れた。