「年が明けたらそこに帰ろうと思ってる」



「えっ?」



別に車椅子でも教師は続けられるじゃないかって、言葉が思わず出てしまいそうになった。



現実にはきっと無理なんだろうな……



「俺はな。生まれ故郷を捨ててこっちに出てきたんだ」



あたしが聞きたいのはそんな話じゃない。



どうして、この地に残ってくれないのかってこと。



教師は辞めなきゃいけないのかってこと。



それがまず最初に聞きたい。



でも、あたしには有田の話を遮って質問することが出来ない。



「田舎暮らしが嫌でたまらなかった。まだ10代だったからな」



フッと笑うように話す有田の表情はいつにも増して穏やかで、近くにいるだけであたしの心まで静まっていった。



「親も家族も捨てて自分だけのために、こっちに出てきて教師になった。それが正しいとあの頃は思っていた。でも、俺の居場所はあの田舎だったんだ」



「どうして?」



こんなにも沢山の人に慕われて生きている有田の居場所は絶対にここだろ?



「どうしてだろうな。今回のことがあって、そう思った。家族が一番大切だって。そこが俺の居場所だったんだって」



「そっか……」



あたしは有田の言葉に少しガッカリした。



やっぱり家族が居場所なんだと……



家族がない者には居場所はないんだと、そう言われた気がした。



「家族って血の繋がりじゃないぞ」



あたしの心の中を見透かしたように、有田は視線だけをこちらに向ける。



「あの村にいる奴等みんなが俺の家族だ。だから、俺はこの歳になってはじめてそんな家族に恩返しがしたいと思ったんだ」



「でも、それじゃあ、あたし達は?あたし達だって有田を大切に!!」



大切に思ってる。



恥ずかしくて最後まで言えない言葉。