屋上のドアの前まで行くと、豊の足が止まる。


振り返るなよ。



堪えていた涙は階段を上りながら溢れてきて、何度拭っても止まらない。



今、泣いていることは誰にも知られたくなかった。



だから、豊。



絶対に振り向くな。



って念じていたのに、豊はアッサリと振り向いてくれる。



「我慢しないで泣け」



「あたしは泣いちゃいけない。自業自得だから」



喋るとますます流れ出る涙。



こんなどうしようもないあたしを豊はギュって抱きしめてくれる。



「全部、お前のせいじゃない」



そう言いながら、あたしの頭を撫でてくれる豊。



「一人で抱え込むな。俺が側にいるから」



豊の言葉が嬉しくて、何もかも忘れて豊の体にしがみ付きたくなる。



でも、豊には……



「豊~来ちゃった……っえ?何してんの?」



あたしの背中から一番聞きたくない声がした。



抱きしめてくれていた豊の手からは力が抜けていく。



「ふみ……」



そう、あたしは豊にしがみ付くことなんてできない。



だって、豊には好きな人がいるじゃない。



あたしの涙は嘘みたいに止まり、豊から体を離した。



「豊、これ何?」



女の声は急にトーンが低くなる。



「ふみちゃん、待ってよ。そこはダメだって」



そんな張り詰めた空気の中、能天気な男が息を切らして現れる。



「えっ?皆さんお揃いで?カナちん?ん?」



翔に話しかけられたけど、あたしは振り向くことが出来ない。



女の顔を見たくなくて……