「お前がコイツを大切にしてたなら、邪魔なんてしねぇよ。ただ、女が男に殴られてんのに、俺はほっとけねぇ。コイツじゃなくたって同じ事をした」



「カナは俺のものだ!!お前にどうこう言われる筋合いはない!!」



宗が狂ったように大声を上げると、豊はあたしの体を掴み、宗の前に突き出した。



立つだけでも痛かったお腹は、ズキズキと余計に痛みを増す。



「見ろよ。お前のものだって言ってる女の顔を!!こんな姿にしておいて大切にしたって言えんのか?お前に近づくだけでこんなにも震えてる女がお前のものなのかよ!!」



豊の言葉に宗は一粒の涙を流した。



流したというようりは落とした。



スローモーションのようにゆっくりと零れ落ちた涙はコンクリートの床に吸収されるように消えていく。



痛みばかりを気にして、気付いていなかったけれど……



至近距離で近づいているあたしの体は豊に支えられていなければ立っていられないほど震えている。



「カナは俺のものだ。カナは俺のものだ」



そう繰り返しながら、宗はあたしから離れていく。



一歩一歩後ずさり、もうあたしの顔など見ていない。



「二度とコイツに近づくな。近づいた時はどうなるかわかってるな?」



久しぶりに聞く、豊の低い声。



あたしはその声にすらビクついてしまう。



変わり果てた宗の姿は見ているだけで、胸がはち切れそうだ。



でも、あたしにはどうすることもできなくて……



豊の言葉に逃げるように走り去った宗の背中が目に焼きついている。