「驚かして悪りぃ」



あたしは豊の方へと振り向き、首を左右に振る。



「大丈夫」



「行くぞ」



「えっ?どこに?」



「屋上だ」と言いながら豊はあたしの手をゆっくりと掴み、階段を上がって行く。



こんなこと、しないで欲しい。



あの頃を思い出してしまう。



あの頃に戻ったんじゃないかって錯覚してしまう。



そう言いたいけど、この手を離したくないもう一人のあたしが出かかった言葉を飲み込ませる。



ギィーと音を鳴らしながら開く扉の向こうは、眩しい世界。



あたしは一瞬、目を細め瞬きを繰り返す。



豊の定位置に辿り着くまでの間、沢山の人があたしと豊に視線を向けた。



彼女以外の手を引いてる豊に対しての視線なのか……



傷だらけのあたしの顔に向けられた視線なのか……



あたしは下を向きながら歩く。