もうダメだ。



きっと宗はあたしを許してはくれない。



家に帰ることも許されないだろう。



殴られて死ぬかもしれない。



腕を掴まれた瞬間に頭の中を過ぎる恐怖に体が震える。



「靴も履かないで何してんだよ」



その声……



あたしの腕を掴んだのは宗ではなく……



声だけでわかる。



振り向かなくたってわかる。



豊の声だった。



固まったままのあたしの前に回りこんできた豊。



「おまっ……その顔」



あー懐かしい。



眉間にシワを寄せる豊の顔が懐かしくてたまらない。



「カナ?」



その時、背後から聞こえた声にあたしの体は再び震えだす。



ゆっくりと振り返ると、息をきらしながら立っている宗が視界に映る。



「何してんの?」



「あっ……その」



「帰ろう」



優しい声で手を差し伸べてくれる宗だけど、顔が笑っていない。



宗の元へは行きたくない。



でも、恐怖のあまりその手を掴みかけてしまいそうになるあたしの体を豊が後ろから優しく抱きしめた。