「こうでもしないと来ないだろ?」



「最低!!」



あたしは枕を投げつける。



「カナが俺以外の男といるから悪いんだろ?」



そう言いながら近づいてくる宗の目はあたしを見ているけど、あたしを見ていない。



「電話に出たのは兄貴だよ!!」



あたしは必死に宗を宥めようとする。



「そんな嘘に騙されるか!!」



思い切り殴られた口元。



手で押さえると赤い液が手につく。



覆いかぶさってくる宗をかわし、あたしは裸足のまま家を出た。



「カナ!!」と大声で追いかけてくる宗。



もう嫌だ。



もう限界だ。



宗の家は豊の住んでいるアパートの並びにある。



みんなに会いたくないあたしはいつも遠回りをして、自分の家と宗の家を行き来していた。



でも、今日ばかりはそんなこと構っていられない。



あたしは豊のアパートの前を勢いよく走りぬける。



あと少し。



あと少しで家に着くはずだったのに……



あたしの手は思い切り掴まれてしまった。