すぐに夏休みになったのがあの時のあたしには何よりの救い。



学校にいれば嫌でも豊の姿を目にしてしまうから。



一度だけ、豊とすれ違ったときに声をかけられた。



「カナ」と……



あたしの好きだった声が耳の中で煩いくらいにこだまして、あたしは顔を歪める。



「話が……」と言葉を続けた豊にあたしは笑顔で振り返り、「もういいから」と一言。



それ以上、豊は何も言わなかったし、あたしも何も話すことなどなかった。



それからは学校ですれ違っても目もあわせない。



あたしは豊にとって透明人間。



それでいい。



そのほうが楽。