ありがとうを言いそびれたあたしは用意を済ませ、外へと出た。



目に入った黒いセダンに駆け寄ると中には大輔さんが……



「カナさん、体調大丈夫ですか?」



窓を開け、優しく笑ってくれる。



「もう大丈夫。あたし今日から歩いていきます。もう送り迎えはいらない。そう豊に伝えて」



「えっ?カナさん?」



他の女と付き合ってるのに、あたしのために送り迎えなんか寄こさなくていい。



でも、これが豊なりの優しさなんだろう。



あたしが万が一でも危ない目に合わないように。



でも、そんなこと受け入れられるほどあたしは大人じゃない。



あたしにだってプライドはあるんだ。



久々の景色を眺めながら学校へと向かった。



封印した豊の記憶が飛び出てきそうになるのを必死で抑えながら。



たまにチクチクと胸が痛むけど、前だけを見よう。



あたしはずっと一人でやってきたじゃないか。