豊の背中にしがみ付いているあたしは背中から伝わってくる体温を頬で感じていた。



どうしようもなく疎外感を感じたのはついさっきのことなのに、この温もりを感じているとそんなこと忘れてしまいそう。



あたしは一体何に怯えているんだろう?



走って逃げ出すほどのことだった?



豊の温もりはこんなにも近くにあって、豊はいつだってあたしを心配してくれるのに……



あたしは何から逃れようとしたのだろう?



「寒いだろ?早く入るぞ」



家に着き、バイクから降りた豊は驚くほど優しくなり、あたしの手を引いてくれる。



「手、あったかいな」



「豊の背中が温かかったから」



「そうか」



部屋の中に入ると懐かしい香りがする。



住んでいたら匂いなんて感じないんだけど、人の家にはそれぞれその家の匂いがある。



あたしの家にも……



たまに帰ってきたりするとその匂いが懐かしく感じ、ホッとできる。



あたしは懐かしく思えるほど豊の家に長く住んでるわけじゃないんだけど、豊の匂いを嗅ぐと安心できてしまう。



いつかこの匂いが感じなくなる日がきたらいいのにな。