あたしの怒鳴り声に豊は目を真ん丸くして、突然握り締めていた手を離すから、あたしの手はブラブラと行き場がなくなってしまう。



ありがとうって……心配してくれてありがとうって言いたかったのに。



豊はあたしに背を向け、玄関に向かって足を進めた。



「おい、帰るのか?」



祐樹の言葉にも振り返ることはなく「はい」と返事をした。



「豊、いいから座れ」



「でも、今日は……」



「命令だ」



あたしのほうは一度も見ないまま、豊は渋々あたしの隣へと腰掛ける。



「疲れただろ?」



「いえ、大丈夫っす」



「そう言わずにコーヒーでも飲んでけよ」



「はい」



祐樹が何で豊を引き止めたのかは、よくわからないけど、あたしは何をどうすればいいのか、もうわからない。



「カナ、何で逃げた?」



「あたし?」



「一志んとこに居たんだろ?」



何でって……言っても祐樹にはわからない。



「言え。言うまで何時間もこのままだぞ。豊もな」



「別に言ってもいいけどわかんないぞ」



「それでもいい」