「帰る」



あたしはソファーから立ち上がり、豊に背を向けた。



相変わらず静かな部屋の中で、豊が動く気配は感じない。



質問には何も答えていないのに、引き止めてさえくれないんだ。



所詮、人なんてそんなもんだよね。



あたしは玄関に向かって一歩一歩噛み締めるように歩き出す。



わかってたよ。



みんな同じだって。



でも、でもね。



豊は違うんじゃないかって期待した。



豊はわかってくれるんじゃないかって思ってた。



そんなこと期待したあたしが悪いんだけど……



そんなこと思ったあたしが悪いんだけど……



前に突き出す足が重くて仕方ない。