「遅くなってごめんね」




こんな寒空の下にそぐわないような声が聞こえる。




よく耳に馴染んでいた、大好きな声。




「……茉緒……?




…帰ったはずじゃ…」




そう言うと、茉緒は微笑んだ。




「…ううん、帰ってないよ。




私、ハル君に話があったの。」




真剣な目で見つめられる。




茉緒は俺のことを"ハル君"と呼ぶ。




最初に会ったとき、"悠人"(ゆうと)を"はると"と読み間違えたんだ。




その時から、ずっと、ハル君と呼ぶ。




『だって、他にハル君って呼ぶ子いないじゃん』




と、自慢っぽく言ってたっけ。




でも今は、どこか悲しい響きに聞こえる。