「雨、強くなってきたね」

ふいに彼女が指を指した。
空模様は悪化して黒い渦のような雲から、ボタボタと容赦ない筋がくっきりと見える。
僕のため息はもう一度。

「好きだった」

と、苦笑した。

その途端に彼女が顔を歪ませる。
幸福に満ち溢れた、穏やかな顔だった。

「だよね」といつもの調子で言うものの、声色が高くなっているのがわかる。
彼女の癖を楽しみながら、
僕は肩にかけた鞄から、小さい筒を取り出した。