「きみ、かさ、もってる?」
僕は両の手をヒラヒラと揺らしヘラりと笑ってみせた。
「ごめん」と丁寧に言った。彼女はにこりともせず「そーだよね」とそっぽを向く。
冷たい雨が靴をかする。
少し後ろの彼女は退屈そうに遠くを見た。
「上着着てく?」
「着ないよ」
「迎え来んの?」
「来ると思うの?」
「僕普通の傘持ってねぇけど?」
「知ってるわよ」
僕は彼女に近づいてポンと、頭を撫でた。
少し背の低い、可愛い“彼女”だ。
黒のロングを見つめて微笑むと、「なによ」と口を尖らせる。
上目使いで僕を見た、そんな姿が愛しくて思わず。
「 」
と言ってしまったのも束の間、
雨の音に消された言葉は
仕方なく宙に浮いて消えていった。


