「夕空かなぁ」


彼女はそしてあの歌を口ずさんだ。

サイドメモリー
めまいがするような綺麗な空を
掴んでもう離さないように
翔べばもう忘れているさ
どんな記憶だって

彼女は普通の曲としてそれを歌っていた。そういえば彼女はそのバンドのファンだとか言ってたっけ。

僕はざわざわと帰っていくクラスメイトたちを一瞥しながら、彼女に向かってようやく「なんで」の一言を出した。

「んー?
私、夕空でね。
空は青いのに、太陽の当り方で雲だけ赤くなるとき、あるでしょ?
あれが、すごく、好き。」


あぁ、あんまり想像つかないけれど何となくわかる気がした。
彼女は満足そうに僕を見つめている。僕は首を傾げているのにも関わらず、台詞を続けた。

「ありえないようなことがね、
そのまま起きていて
その甘美さと優越感は
めまいがするほど、綺麗。空は、綺麗だったんだ。」

そうして彼女は僕から卒業証書のホルダーを取り上げる。
「そんな空に飛び立てれば本望なのさ~」なんて調子よく言いながら僕のホルダーを振り回す。