“春くん”......
彼とわかれたあとも、頭の中は春くんのことを考えてしまっていた。
ポカポカと温かい笑顔。
耳にスッと入ってきて、心地よくコダマする声。
風が運ぶ爽やかな香り。
春くんのことを考えると自然と心が穏やかになる。
「ただいま.....」
玄関をあけ、ひとりでつぶやく。
シーンとした家の中。
いまだに、この瞬間が悲しくて。
寂しくて、たまらない。
ふと思い出す、パパとママの笑顔。
家に帰れば必ずママの元気な「おかえり」って声が聞こえてきて。
学校であったこと、なんでも話して。
それを笑顔で聞いてくれて。
しばらくしたらパパが帰ってくる。
3人で囲む食卓。
それぞれの会話。
全部大好きだった.....のに......
再び涙が溢れそうになるのを必死にこらえる。
笑顔でいなきゃ。
明るくいなきゃ。
そしてまた思い浮かぶ春くんの顔。
この時の私はまだ、この先に待っている運命なんてわかるはずもなかった────....