『竜太郎』
華が彼の名前を呼んだとき。
ドキリと嫌に胸が鳴ったのがわかった。
彼の前で見せるのは、俺の知らない笑顔で。
見ていられなかった。目の前で喋るふたりの姿を。
幼なじみ。
俺の知らない華を知っている彼。
華が辛くて悲しみのどん底にいた時、彼が慰めて、支えていたんだろう。
何をどうしたって変えることの出来ない過去。
なのに、考えてはモヤモヤして。イラついて。
「あー、くそ....」
俺は、この感情の名前を知ってる。
自分勝手で、一方的な感情。
華と出会って間もない。
俺がこんな感情を抱(いだ)く資格なんてない。
だけど、考え出したら止まらなくて。
思い返してはイライラ、モヤモヤ。
考えないようにすればするほど考えてしまうのが人間で。