震える指で押したインターホンから「はーい」と彼女の声が聞こえて、途端に心臓の鼓動が早まる。
ガチャっと音を立てて開いたドアの向こう、緊張で強ばる頬を必死で持ち上げて浮かべていた笑顔が、一瞬で引っ込んだ。
「こんにちは。ごめんね、彼女ちょっと今手が離せないそうだから、あがって待っていてもらえるかな」
そこにいたのは彼女ではなく、眼鏡をかけた優しそうな顔の男性。
彼女と同じ年くらいの、とても柔らかい雰囲気をした見知らぬ男性。
「あっ、あの……」
咄嗟にそれ以上言葉が出てこなくて、小さく口を開閉させると、男性が微笑みながら首を傾げた。
その後ろから
「二人共、何してるの?ほら、早くあがってあがって!久しぶりね。お向かいなのに最近全然会わないからどうしてるかと思ってたけど、元気そうで良かった」
笑顔の彼女が、甘い香りを伴って顔を出した。
ずっと会いたかった彼女が、ずっと見たかった笑顔を浮かべてそこにいる。
けれど、心はちっとも沸き立たない。
「今ね、ちょうどケーキを焼いていたところなの。今日はね、この人の誕生日だから」
彼女が隣に立つ眼鏡の男性を指差すと、その人は困ったように笑う。
「この人って……もっと他に言い方はなかったの?」
「あら、じゃあなんて紹介して欲しいの?」
彼女がいたずらっ子のように笑うと、男性が困ったような笑顔のままで、諦めたように呟く。



