不思議に不思議な彼女と僕



「別に……」


“必要ない”と言いかけて、彼女がまた遮った。


「気持ちを伝えてください。そうすれば、もう泣かなくていいはずです」


彼女の言葉に、咄嗟に指先で目元を拭うが、そこはちっとも濡れていないし、涙の兆しさえ感じられない。


「なに言ってるんですか。泣いてなんかいません」


これも今日こそ何かを買わせようという営業努力の一貫かと、尖った視線を彼女に向けると、不意に伸びてきた手が、目元を拭った指先を優しく包み込んだ。

再び、ビクッと肩が揺れる。

彼女は、憂うような表情で口を開いた。


「いえ、あなたは初めてここに来た時から泣いていました。本当はきっと、もっとずっと前から、あなたは泣いていたんです」


ほんわりと温かくて柔らかい手の平が、肩と同じに強ばった指先を優しく握り締める。


「泣くときは、ちゃんと涙を流さないとダメなんですよ。悲しい気持ちは、涙と一緒に流してしまわないと。……でないと、いつまでも心の中に残って、ふとした拍子に辛くなるんです」


片手で指先を握っていた手に、そのまま誘うように手を引かれる。

振り返った先で、彼女は一つの商品を手に取った。