それがずっと嫌だったから、今回こそはと抗うように体を方向転換すると、いつの間にかそこに彼女が立っていた。
「……っ!!?」
相変わらず神出鬼没な彼女に、驚きで肩がビクッと揺れて、ついでに出そうになったおかしな声は、必死で力を込めて飲み込んだ。
“幽霊みたいな登場の仕方はやめてください”と抗議しようとしたら、先に彼女が口を開く。
「そちらを届けてくださったのは、年配の男性の方でした」
突然語り始めた彼女に“聞いてませんよ”と言おうとしたのに、またしても先を越されて話が続く。
「奥様が遠くの病院に入院されているそうで。でも、自分も足が悪くて中々お見舞いに行けないから、代わりに手紙を送るのだと。その時選んでいかれた便箋の代わりに、そちらを」
“そちら”と手で示された背後は、振り返らなくても何を指しているのかわかる。
顔も知らない誰かの話になんて興味はないし、聞きたくもないのだけれど、彼女の柔らかい声音は、まるで音楽を聴いているように自然と耳の中に流れ込んできて脳まで響く。
「遠く離れた二人を繋ぐ深い愛が、きっとあなたの気持ちを届けてくれます」



