不思議に不思議な彼女と僕


二回目となる彼女の問いかけに「相変わらず、唐突におかしなことを言いますね」と返したら、すかさずデコピンをお見舞いされた。

口より先に手が出るというのは、女性として、仮にも接客業をするものとしていかがなものかと思う。

それでも加減はされていたからさほど痛みはなかったけれど「痛い、痛い」とおでこを押さえて、彼女から逃げるように別の棚の間に移動する。

振り返っても彼女は追いかけてこなかったから、一応他には誰もいない事を確認してから、おでこに当てていた手を下ろして深く息を吐く。

ふとした拍子に、彼女に懐かしい姿が重なって、胸の奥が疼くように痛む。

そこに厳重に鍵をかけてしまいこんだはずのものが、彼女の何気ない問いかけを合図に、その存在を主張するかのように。

伝えたい想いはない――けれど、伝えたかった想いならあった。

でもそれは、今更どうしようもない。

ずっとずっと大好きだったあの人は、今はもう手の届かないところで、揃いのリングを輝かせて幸せそうに笑っている。