黙って立って忙しなく視線を動かしていたら、気がついた彼女がにこっと笑った。


「別に、ただ興味本位で見にいらしただけでも構わないですよ。今はまだ」


なんだか、全てを見透かされているような気がした。

棚に並んだものを何気なく見て歩いていたようで、実はある時から一つのものが頭から離れなくなっていた事に、彼女は気がついている。

手に取ったり、特別ジッと見つめていたようなこともなかったはずだけれど、それでも他とは違う一瞬の視線の動きに、彼女は何かを感じ取ったのかも知れない。


「またどうぞ。いつでも、お待ちしております」


結局手ぶらで店を出た時、彼女はあの立て付けの悪いドアの前に立って、笑顔で見送ってくれた。

もうきっと、二度と来ることはないだろうと思いながら、ボロ臭い外観を今一度眺める。

筒型のポストや、そこにかけられた木の板、色褪せた”open”の文字を順繰りに。

そんな、二度と来ることはないはずだった場所に、なぜだか暇を持て余すたびに足繁く通っている訳は、自分でも上手く説明できない。

だから未だに、彼女の問いに答えることも、何を買うことも出来てはいない――。





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