レターセットとして、同じ柄の便箋と封筒を一緒に売っているのは幾度も見たことがあるが、ここにはそんなセットは一つもない。
時々、似たような柄のものを見かけても、便箋と封筒はそれぞれ別々に飾られていた。
なんだかよくわからないままに店の中を歩いて、入口前に笑顔で立っている彼女の元に戻る。
「お気に召すものは、ありましたか?」
疑問を投げかけるより先に、彼女に問われた。
思わず答えに詰まって「えっと……」と口ごもる。
「あのドア、おわかりと思いますが、とても立て付けが悪くて中々開けられないんです」
「わたしでも苦労します」と笑った彼女は、入ってきた時のまま、半開きになっているドアを一度振り返る。
「何となく興味本位でやって来た方は皆さん、あまりの立て付けの悪さに途中で諦めてお帰りになるんです。でも、そんなドアを苦労してまで開けてくださる方は、特別な想いを持っているんです」
今度は、ドアからズラッと並んだ棚の方に視線を移す。
「特別に、誰かに伝えたい想いが」
確かにこの店のドアは、来訪者を拒んでいるとしか思えないような立て付けの悪さだったけれど、そこにメルヘンな理由を付ける前に、誰でも入れるように直した方がいいと思う。
思うけれど、それを初めて訪れた店で口に出せるほどの勇気は、あいにくと持ち合わせていない。



