二人の彼~年下の彼と見合い相手の彼 ~


少しだけでも、人に話を聞いてもらうことが出来た。

ただ、それだけで辛い、なに事にも向かっていける勇気がわいてくる。

まだ、ほんの少しの勇気だけど。

梨花ちゃんが朝の掃除の途中で、放り出したままの雑巾を片づける。

朝、彼女は出社すると、課長の机だけきれいにする。

掃除は、自分で行う。

女子社員の負担を減らすために、そう決められたけど、様子を見る限り白石君はきれい好きで、いつもきれいな状態に机を保っている。

新井さんは、資料やデータがどっさり積まれていて、机のほこりも気にしないみたい。

だから、新井さんの机だけ、彼が来る前に、雑巾で拭いていた。
梨花ちゃんが置いて行った雑巾で、自分の机と一緒に拭いてしまおう。



「ちょっといいかな」

拭き掃除が終わった後、荻野課長に呼ばれた。



どんな話を切り出されても、大丈夫。
平気だからと自分に言い聞かせる。

久しぶりに、間近で顔を見た気がする。


「えっと、君とは話をしておいた方がいいと思って」
私達は、会議室で向き合った。


「はい。何でしょうか?」

どんな話題だか、想像がついた。
だから、あえて聞いたりしない。

「この間、急に帰ってしまって、すまなかった」
彼は、軽く頭を下げた。


「それなら、気にしないでください。それより、彩香さん回復してよかったですね」
なるべく、感情を押さえて言う。

「ん、ああ。だいぶ元気になった。もう、自宅に戻ったよ」

自宅?
なんで?

自宅があるのに、どうしてあなたが面倒見てるの?
どのくらい、部屋にいたの?

聞きたいことは山ほどあるけど。
もう、気にしたりしない。

「そうですか。それは、何よりです」